パラリンピック、15年前の“騒動”を振り返る

オリンピックに引き続き、パラリンピックで盛り上がっているロンドン。その模様が、さまざまなメディアで報じられています。報道の量もさることながら、ずいぶんと変わったなと思わされるのが、その中身。かつては、「スポーツとして扱ってください」などと選手や関係者がことあるたびに声を上げていたものですが、もはやその必要はありません。オリンピック取材の視点が、そのままパラリンピックにも適用されているように思えます。

 

そんな報道を見ていて、ふと思い出したことがあります。1998年の長野パラリンピック開催前にちょっとだけ騒動になった、ある出来事。ロンドン・パラリンピックを機に、振り返ってみます。

 

『月刊スキージャーナル』1998年6月号の長野パラリンピック特集からの引用です。

「両手があっても、人間です。
 両手がなくても、人間です。」
 こんなコピーを大文字で掲げた長野パラリンピック公式ポスターを巡る騒動が、昨年秋に新聞紙面を賑わせた。コピーの作者は、テレビCM等で知られる有名コピーライター。バージョン違いとして、「両手」の部分を「両足」「視力」に変えた計3種が作られ、配布されることが決まった。このポスターに対する反応は、「旧来からの差別意識が感じられる」「いや、これぐらいのインパクトは必要だ」といった具合に賛否両論。しかし結局、この問題は本格的な議論にまで発展することはなかった。長野パラリンピック組織委員会(NAPOC)が、あっさりと回収を決めてしまったためだ。したがって、ほとんど人の目に触れることのないまま、公式ポスターは姿を消した。

「新聞紙面を賑わせた」と書いてありますが(書いたのは私なのですが)、「そんなことあったっけ?」と感じた方が、おそらく大多数ではないかと思います。今から15年も前になりますし、そもそも実物を目にした人のほとんどいないお蔵入りポスターの話ですから、無理もないでしょう。

 

時は流れて、2012年。ロンドン・パラリンピックの熱戦が報じられる中、このコピーは皆さんの心にどう響きますか?

 

記事の続きを引用します。

 長野パラリンピックが終わった今、この幻のコピーをあらためて読み返してほしい。何か違和感を覚えはしないだろうか。異論はあるかもしれないが、少なくとも現地で取材にあたった担当編集者は、はっきりとそう感じる。たしかに、見た者を一瞬ハッとさせるインパクトはあるだろう。しかし、それ以上のものは、ここにはない。なにより、このコピーには決定的に欠けているものがある。それは、選手たちを純粋に「競技者(=アスリート)」としてとらえる視点だ。たとえば会場で観戦した人ならば、東館山のオリンピックコースをフルアタックで滑り降りる選手の姿から、アルペン競技の持つ迫力を十二分に感じたことだろう。自分のスキー技術を顧みることになったという人もいるかもしれない。それほどすばらしい力を持った選手たちがなぜ、わざわざ「人間です」などと宣言しなければならないのだろうか(あのコピーが健常者からの言葉だというのなら、余計に始末が悪い)。そこに違和感の元がある。
「両手がなくても“速い”」
「両足がなくても“強い”」
「視力がなくても“巧い”」
 あのポスターのコピーは、たとえばこうあるべきだったのではないだろうか。

1998年に抱いたよりも、はるかに大きな違和感。こんなレベルの話を大真面目に取り上げていたのかと、なんだかバカバカしく思えて、笑っちゃうほどです。今となっては、自分で挙げた代案にもダメ出しをしたい。

 

時代は、明らかに変わりました。パラリンピック選手を見る視点が、当時とはまるで違います。

 

さあ、ロンドン・パラリンピックを観戦しましょう。テレビ放映はダイジェストだけですが、今大会はネットであらゆる競技のライブ中継を観ることができます。「頑張っている障害者」を応援する必要はありません。純粋に競技を楽しみ、アスリートたちのパフォーマンスを見届けてください。観戦者の視点で不満や疑問を持ったなら、厳しい意見をぶつけてもいいと思います。選手たちは、それを受け止める覚悟を持って出場しているはずです。

 

ロンドン・パラリンピック ライブ中継

http://smart.paralympic.org/player/Main.html 

堀切 功(ほりきり・いさお)

 

1965年生まれ。雑誌編集の経験を活かして、写真撮影や出版編集を仕事にしています。

 

詳しくは[プロフィール]をご参照ください。

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