続々々・ピストリウス選手のこと

前回リンクしたスポーツ仲裁裁判所の裁定には、国際陸上競技連盟が実施したテスト内容が不充分であったこと、そして証拠として出された要約が正確ではなかったこと、別の測定では異なる結果が出ていること、などが書かれています。そして、ピストリウス選手の競技会出場を認めないのは不当だという結論に至っているわけです。

 

ただし、今回の裁定はピストリウス選手のみに適用されるものであって、ケース・バイ・ケースで対応すべしということのようです。

ここからは個人的な意見。

 

まず、なるべく早いうちにあらためてテストを行ない、競技用義足のメリットとデメリットについて、きちんとした結論を出してほしいと思います。なぜ必要かというと、ひとつにはピストリウス選手のため。そしてもうひとつは、これからオリンピック出場をめざす選手のためです。

 

今回の世界陸上で、ピストリウス選手に向けられた視線がかならずしも好意的なものばかりではなかったことは、前々回に書きました。来年にはロンドン・オリンピックにも挑戦するはずの彼を、「ずるい」という声が上がる中で走らせるのは、あまりに気の毒です。前回の裁定が、いわば「証拠不充分」での決着だっただけに、この次は誰もが納得できるデータをぜひ示してほしい。

 

また、他の義足使用選手への指針という意味でも、用具に関するルールづくりは必要でしょう。今後、彼に続く選手がきっと現われるはずです。これまで行なわれてきたのは、もっぱら「ピストリウス選手の出場は是か非か」という論議ですが、これをもっと普遍性のあるものに発展させていかなければなりません。

 

ただ、まだ難しい問題が残りそうなんですよね。たとえば、「義足の性能をどこまで上げていいのか」。現在の義足は、失われた肉体機能を補うものという前提ですが、将来的にそれを超えるものが登場したときに、それをどう扱うべきか、ということです。見方を変えると、競技用義足の進化をどこで止めるべきか、とも言えるかもしれません。

 

また、「義足使用選手の進出が著しくなった場合、健常者と同じステージで競い続けることは妥当かどうか」。極端な例ですが、オリンピックの400m決勝に進む選手の半数が義足を使っているような事態が起きたら、社会はそれを容認できるでしょうか。あるいは、もう少し身近な問題として考えるなら、「オリンピック日本代表に義足使用者が入ってもよいか」という問いかけもできますね。すでに南アフリカはひとつの答えを出したわけですが、あれが絶対的な前例となるようには思えません。もしかしたら訪れるかもしれないそのとき、日本はどういう判断を下すのでしょうか。

 

これもまた私個人の考えですが、将来的にはオリンピックの中に「障害者クラス」を設ける方向が良いのではないかという気がしています。つまり、パラリンピックをオリンピックに内包してもらおうということです。ただし、ただでさえオリンピックの肥大化が問題視されている中、実現のハードルは高そうです。また、パラリンピックの複雑なクラス分けをなんとかする必要もあるでしょう。

 

長々と引っ張ったわりには、それほどの内容にはならなかったかもしれませんが、とりあえずここまで。また何か頭の中でまとまることがあれば、あらためて書いていきます。

堀切 功(ほりきり・いさお)

 

1965年生まれ。雑誌編集の経験を活かして、写真撮影や出版編集を仕事にしています。

 

詳しくは[プロフィール]をご参照ください。

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